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ゾウリムシの「モリ」のはなし

単細胞生物のゾウリムシは身の危険を感じると、タンパク質でできた長く細い「銛」のようなものを発射します。

The arsenal of paramecium

Issue 3 October 2000 by Vivienne Baillie Gerritsen

銛は人類だけの発明ではないようです。ゾウリムシ(Paramecium)は防御のために非常に高度な銛を開発してきました。アルジェリアの原生動物学者であるEmile Maupas(1842—1916)は19世紀にすでに光学顕微鏡を使って銛のような毛胞を観察しており、「細胞表面の爆発は瞬時におこる。あまりに速いので、紡錘上の軸が細い針に変形する過程を追うことはほどんど不可能である」と記しています。

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 「怒」ゾウリムシ
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毛胞はニンジンが土に埋まったような形をした細胞外小胞で、長さは3~4ミクロンで直径は1ミクロン、長さ2ミクロンの尖った先端を持っています。数千の毛胞は細胞膜の内側付近に等間隔で格納されています。このニンジンが細胞に刺さった銛の矢じりのようにも見えますが、そうではありません。毛胞の特色はMaupasが観察していたものの中にあります。この銛は毛胞マトリックスタンパク質(trichocyst matrix proteins, TMPs)で詰まっていて、これらは準結晶構造1)で結合しています。筋肉の収縮に関わるトロポミオシンの準結晶を思い起こさせます。

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image from original article

敵がいないときには、自発的なエキソサイトーシスの速さは毎分2-3回くらいです。しかし、ゾウリムシが攻撃される時には、このコンパクトな結晶構造は細胞膜の外に打ち出され、結晶構造の脱凝縮(脱離)が推進力となって前に押し出されます。発射には1ミリ秒もかかりません! さらに次の緩和した不可逆な結晶構造をとることによって、8倍(25~35μm)にも伸び、安定します。ジェノバ大学の古生物学者Dr.Robert Peckは言います。「この様子は信じられない。同一のタンパク質構造が二つの結晶構造をとることには、化学者やポリマー研究者が非常に高い関心をもっている。」銛が撃たれる様子ばかりが印象に残りますが、同一のタンパク質が結合構造を変えること自体、とても驚くべきことなのです。電子顕微鏡によれば、この同じタンパク質は銛の先端の尖った部分の構造さえも形成しています・・

科学者たちはTMPを分子レベルで理解しようとしています。一つの毛胞には100種類のタンパク質があり、これらは複数の多重遺伝子ファミリーから作られています。TMPは40-45kDaの前駆体タンパク質として合成され、酵素による分解によって15-20kDaの成熟ポリペプチドとなります。前駆体分子は2つの成熟ポリペプチドを作るわけです。一つのポリペプチド鎖から銛を完成させることで銛を速く新しく合成できます。しかし、それだけのためにTMPすべてが一つの遺伝子から進化したかもしれない、という説には議論の余地があります。Peckは懐疑的です。彼によれば「2次配列間には類似点が殆どないが、2次構造は驚くほど似通っている」とのことです。実際、TMPは単一のフォールディングを共有していて、7残基の繰り返しがあることから逆平行4αヘリックス構造を形成していると考えられます。

では、この銛の引き金はどうやって引くのでしょうか? Harumotoらはこれを理解するために、ディレプタス(ゾウハナミズケムシ, Dileptus)とゾウリムシの戦いのロジックの観察を試みました。ディレプタスはゾウリムシを捕食します。ゾウリムシはディレプタスから捕食されまいとします。ディレプタスが攻撃的になると、その象のような長い鼻で最初の攻撃を行います。ゾウリムシは、すぐに攻撃を受けた場所で毛胞を爆発的に放出します。この同時射撃でも反撃というほどもものではありませんが、おそらく、ディレプタスの鼻の繊毛を引きぬいたり押出したりすることによって、この捕食者をかわすことができるのでしょう。また、毛胞がいっせいに速射されることによって、ゾウリムシが危険から逃げる推進力も得ています。言うまでもなく、反応が速ければ速いほどゾウリムシが生き延びることができます。

驚いたことに、ディレプタスが横をかすめるくらいではゾウリムシの攻撃はありません。毛胞は、ゾウリムシの触手が相手としっかり接触した時にだけ発射されるのです。一回の攻撃はたいへんな労力をタンパク質を費やすわけですから当然のことでしょう。実際、一回の毛胞の発射は捕食者から逃げることに十分でないかもしれません。鼻の次の攻撃に備え、ゾウリムシは次の銛タンパク質を用意するのですが、この時点でゾウリムシはすでにピンチです。同じ場所に2回目の攻撃がきてしまうと、ゾウリムシの細胞は膨張を起こします。そして、ディレプタスが同じ場所に容赦なく攻撃を続けると、ゾウリムシは分解してしまいます。きっと元に戻せる変形の限度を超えてしまうのでしょう。

ゾウリムシはすべての捕食者から逃げ切れるわけではありません。Peckは「人間と同じですよ。どんな武器を使っても、それが有効な相手と無効な相手がいるのです。これは、防御の種類に依存します。」と言います。例えば、ゾウリムシを捕食するシオカメウズムシ(ディディニウム属 Didinium)は、大砲による攻撃に対しての防御は万全で、発射される毛胞では歯が立ちません。ひょっとしたら、ゾウリムシたちはもっと強力な新しい武器を準備しているところかもしれませんね。

Cross-references to Swiss-Prot

  • Trichocyst matrix protein T1-A, Paramecium tetraurelia : Q27172
  • Trichocyst matrix protein T1-B, Paramecium tetraurelia : Q27180
  • Trichocyst matrix protein T2-A, Paramecium tetraurelia : Q27173
  • Trichocyst matrix protein T2-B, Paramecium tetraurelian : Q27174
  • Trichocyst matrix protein T2-C, Paramecium tetraurelia : Q27181
  • Trichocyst matrix protein T4-A, Paramecium tetraurelia : Q27182
  • Trichocyst matrix protein T4-C, Paramecium tetraurelia : Q27176

References

  1. A structural protein extracted from the trichocyst of Paramecium aurelia.
    Steers E Jr, Beisson J, Marchesi VT
    Exp Cell Res57p392-6(1969 Oct)
  2. Haacke-Bell B., Hohenberger-Bregger R., Plattner H.
    Trichocysts of Paramecium secretory organelles in search of their function
    Eur. J. Protist. 25:289-305(1990)
  3. Harumoto T., Miyake A.
    Defensive function of trichocysts in Paramecium
    J. Exp. Zool. 260:84-92(1990

補足

1) paracrystallin。液晶のように短い範囲内では結晶格子を形成するが、長い距離では秩序だった結晶格子を形成しない構造
Issue 2 Issue 4






















Dileptus
(image from micro*scope)
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Didinium by Szewiakow