邪魔者から生まれる真珠の輝き
真珠の輝きは、貝が異物を閉じ込めるための仕組みによって作り出されています。
String of intrusion
Issue 112 December 2009 by Vivienne Baillie Gerritsen
小さな頃、おばあさんが編んでくれた小さな綿のシャツを着ていました。それが何かって?そのシャツにはつまめない程小さな真珠母のボタンを縫いつけてくれていたんです。光をあてる方向によって様々な色が輝くので、あれにはうっとりしました。今でも探せば見つかるとは思いますが、このようなボタンはほとんどプラスチックの物になってしまいましたね。真珠母の光沢を真似たものすらあります。真珠を真珠たらしめているあの光沢は何から出来ているのでしょうか? それはアラゴナイトです。アラゴナイトは炭酸カルシウムです。そして最近、真珠母カキ(Pictada fucata)の真珠から発見した3つのタンパク質がアラゴナイトの形成や方向、さらに見事な輝きを決める鍵であろう、ということが見出されました。
真珠は、前の世紀や貴族社会に特別なものではありません。真珠は他にない輝きをもっているため、貝が採れる所で採取されてきました。何千年もいろいろな海で、多くの神聖な儀式で現れます。ヒンドゥー教の経典では真珠母の粉を消化の刺激剤や精神病の治療に使うように書かれています。また、マルコポーロはマラバールの王(南インド地方)がルビーと同じくらい高価な真珠を108個も首の周りに身につけていたと回想しています。このひとつのネックレスは代々受け継がれていました1)。
20世紀以前、完璧な真珠を探すのには時間がかかりました。何世紀もの間、効果な宝石を探して稼ぎたい一心のダイバー達によって、何百万という軟体動物がこじ開けられて結果的に殺されました。大きければ大きいほど、丸ければ丸いほど良いとされています。しかし、そんな真珠は稀です。なぜなら、それは自然現象かつ、ラッキーなアクシデントの結果だからです。実際、天然の真珠のもとというのは、貝にとっての異物が柔らかい組織の中に包まれたものです。異物としては、砂粒とか、小さな生き物とか、自分自身の殻が欠けたものです。異物からの防御の方法として、軟体動物は外来の異物をアラゴナイトの殻で捕まえます。これは遅いプロセスですが、究極的には真珠の形成に至ります。だから、かれらの首を飾っているのは実は貝にとって邪魔者の成れの果てなのです。
Darwinの進化論を擁護したことで有名なトーマス・ヘンリー・ハクスレイがイギリス人の海洋生物学者ウィリアム・サビール・ケントをオーストラリアに送ったのは1900年の直前です。この海洋生物学者はすぐに真珠を成長させる方法を考案しました。それは、カキの組織にタネとなる刺激物を導入する方法です。そして、かれはその情報を日本人の同僚に渡しました。真珠の文化はそのときから繁栄を始めてありふれた宝飾品となりましたが、それでも完璧な丸い真珠を作るのは難しい仕事です。 しかし、どうやって真珠はできるのでしょうか?殻や真珠母は有機的な物質からできています、キチンや二つの構造の炭酸カルシウムです。カキの外側の殻は角柱のかたちで成長する方解石(カルサイト)からできており、これは強固で安定です。真珠母はアラゴナイト(炭酸カルシウムの構造の一つ)からできており、とても堅いですが、カルサイトよりは安定では有りません。これは殻の内側を平面的・線上に成長し、独特の光沢をもっています2)。現在まで、この角柱と平面(platelets)の構造をどうやって切り替えるかが謎のままでしたが、このアラゴナイトの平面的な成長の鍵となっているタンパク質複合体が新しく見つかりました。
この複合体は3つのタンパク質で形成され、Pif complexとして知られるpearlin、Pif80、Pif97から成ります。Pif80とPif97は同一の配列の一部で、切りだされて2種類のタンパク質となります。2つのタンパク質は軟組織の上皮細胞で複合体を形成して分泌され、Pif97がキチンのマイクロフィブリル(真珠の有機物部分)とpearlinに結合します。このようにして大きな凝集を作り、他のタンパク質と結合します。この凝集は、アラゴナイトの板状のシート構造を作りだします。そのシートの中で、Pif80(多くのアスパラギン残基によって)は炭酸カルシウムを結合します。アラゴナイト結晶形成を引き出すだけでなく、アラゴナイト結晶の方向制御の役割を持っています。Pif80によって無秩序な凝集ではなく、真珠母の層が形成されるわけです。カキの殻の内側はこの真珠層の積み重ねによってきれいな光沢を放っているのです。もしかしたら、遊離した小さな天然の真珠に出くわした人もいるかも知れませんが、普通は見落とすくらい小さいものです。
多くの生物はどうやって無機物を材料として利用するかを知っています。骨、歯、外骨格、貝殻・・ それ自体驚くべきことです。無機物から有機物を作ることはできません・・すべては、私たちの体のパーツをまとめて格納したり守ったりするためにあります。これは材料工学者がうらやむものです。バイオミネラリゼーションがどのように起こるかに関する知識が増えれば、もっと性能の良い複合材料を合成することができるようになるでしょう。それにしても、自然はさまざまな活動と能力を見せてくれるものですね。真珠は単にカキにとって邪魔だから存在していて、しかしそんな邪魔者が人々の耳元で輝く、とは面白いものですね。
Cross-references to Swiss-Prot
References
- Kröger N.
The molecular basis of nacre formation
Science 325:1351-1352(2009)
補足
- Pinctada - Encyclopedia of Life