ミントの香りのはなし (Issue 113)
ペパーミントやスペアミントの清涼感のある香りは、シトクロムP450群が作り出しています。
mint condition
Issue 113 January 2010 by Vivienne Baillie Gerritsen
ミントやメンソールは、世界で最も人気が高い香りで、その感覚は最も知られているものでしょう。ミント味のキャンディーを舐めたりミントガムを噛んだことのない人なんているでしょうか?ミントは飲み物にも、歯磨き粉にも使われています。ソースに加えられたり、チョコレートに加えたりもします。胸に塗ったりティッシュに付けたりもしますね。いずれにしても、なぜこの地球上のどこにでもミントやメンソールがあるんでしょうか? 「輸送されたから」というのが答えなのですが、それだけではありません。健康に良いとされることもありますし、多くの人がすぐに認識出来る「新鮮さ」を感じさせてくれます。この感覚はミント植物に見つかった2つの類縁タンパク質、P450シトクロム酵素で合成される物質によるものです。
ミント植物の価値は何世紀にもわたって評価されてきました。多くの薬用植物と同じように、ミント植物はギリシャ神話の登場人物にちなんで名付けられました。ニンフであるミンテです1)。ペルセフォネは冥界の神、プルート2)がミンテに恋をしていることに嫉妬して、彼女をすぐに植物の姿に変えてしまいます。不幸なことに、プルートはミンテをもとに戻すことが出来なかったのですが、彼女の香りが独特で心地よいものにして決して忘れ去られないようにすると約束します。特に彼女が踏まれるときには・・・かくして、彼女は地中海の雑草となり、その効用は広く知られることとなりました。乾燥させたミントの葉はエジプトの墓でも見つかっています。ローマ人はそれを幅広く利用し、訪れたイギリス人に紹介しました。イギリスはそれを植民地化した世界中のさまざまな場所へ持ち込みました。
もっとも有名な二つのミント植物はスペアミント(Mentha spicata)とペパーミント(Mentha piperita)です。何千年も前から知られており、それらのエッセンシャルオイルは数多くの軽い病気の治療に使われました。名前をあげれば・・・頭痛や消化不良、下痢、乗り物酔い、寒気、胆石、感染症などです。なにがそんなに良い効能をもたらすのでしょうか?答えはメンソールとカルボンです。スペアミント植物ははリモネン-6-ヒドロキラーゼを持っており、カルボンを生成します。この化学物質はよく知られたスペアミントの香りを放ちます。一方、ペパーミント植物はリモネン-3-ヒドロキラーゼを持っており、メンソールの生成反応を行います。これらリモネンヒドロキシラーゼは大きなP450シトクロムファミリーに属していて、このメンバーは数百の酸化モノテルペン(カルボンとメンソールも含まれる)の数千の天然植物の生成物を作り出す中心的な役割を持っています。モノテルペンは芳香と味のもとです。特に、エッシェンシャルオイルの香りの元となっています。
カルボンとメンソールは、ひとつの同じ有機化合物、リモネンを水酸化した最終生成物です。(スペアミントヒドロキシラーゼ、ペパーミントヒドロキシラーゼの)。リモネン-6-ヒドロキシラーゼはリモネンの6位を水酸化してトランスカルベオールを生成し、結果的にカルボンまで変換されます。一方、リモネン-3-ヒドロキシラーゼは3位を水酸化してトランスイソピペリテノールを生成し、5段階の反応を経てメントールになります。この二つの酵素はとても似ていて、基質の結合サイトがとても制限されています。この発見は化学者を驚かせました。一般に、P450シトクロムファミリーの中で活性を変化させることはいくつもの変異が必要とされており、リモネンヒドロキシラーゼの結合特性を変えるのにはたったひとつの変異で済んでいます。
この特殊な変異はスペアミントヒドロキシラーゼの配列の中のフェニルアラニン(Phe)からイソロイシン(Ile)への変異です。もとがスペアミントの酵素、リモネン-6-ヒドロキシラーゼでも、このフェニルアラニンからイソロイシンへの変異させるだけでリモネン-3-ヒドロキシラーゼになってしまうのです!このスペアミント酵素はこのようにいとこのペパーミントヒドロキシラーゼのように、メンソールを作る能力があるのです!このような変異ポイントはこの場所のアミノ酸が必須であるだけでなく、おそらく結合ポケットの中でC3、C6どちらにでも水酸化するような方向に基質であるリモネンの方向を制御しているのでしょう。
これほど劇的にタンパク質の機能を変えることが出来る単一変異は、研究対象として大きな興味があるところです。タンパク質のどのアミノ酸が機能に重要であるかを絞り込めるということだけでなく、基質結合・基質の方向制御・結合ポケットの構造・酵素の機能・代謝の経路などの例を理解するための価値のある情報を提供してくれるからです。言うまでもなく、これらはバイオテクノロジーにおいても興味のある対象です。リモネン-3-、リモネン-6-ヒドロキラーゼの基質の結合ポケットは小さくてタイトに違いないので、ひとつの変異で基質の方向に影響を与えるはずです。また、形質転換した大腸菌や酵母を利用してペパーミントオイルの効率よく得たい場合にもこういった情報は重要です。酵素に関する興味深い知識とともに、良い香りや味を楽しませてくれる女神、ミンテに感謝したいですね。
Cross-references to Swiss-Prot
Cytochrome P450 71D15, Mentha piperita (Peppermint) : Q9XHE6 Cytochrome P450 71D18, Mentha spicata (Spearmint) : Q9XHE8
References
- A single amino acid substitution (F363I) converts the regiochemistry of the spearmint (-)-limonene hydroxylase from a C6- to a C3-hydroxylase.
Schalk M, Croteau R
Proc Natl Acad Sci U S A97p11948-53(2000 Oct 24) - Hydroxylation of limonene enantiomers and analogs by recombinant (-)-limonene 3- and 6-hydroxylases from mint (Mentha) species: evidence for catalysis within sterically constrained active sites.
Wüst M, Little DB, Schalk M, Croteau R
Arch Biochem Biophys387p125-36(2001 Mar 1) - Regiospecific cytochrome P450 limonene hydroxylases from mint (Mentha) species: cDNA isolation, characterization, and functional expression of (-)-4S-limonene-3-hydroxylase and (-)-4S-limonene-6-hydroxylase.
Lupien S, Karp F, Wildung M, Croteau R
Arch Biochem Biophys368p181-92(1999 Aug 1)
補足
代謝
モノテルペノイド生合成経路 (Monoterpenoid biosynthesis)



