体を形作るメッセージのはなし (Issue 116)
一つ一つの細胞は「自分が何になるべきか」というメッセージを受容体で受け取っています。しかし、それらのメッセージの流れは複雑で、まるで宛名と送り主が分からない手紙が行き交っているようです。
A complicated affair
Issue 116 March 2010 by Vivienne Baillie Gerritsen
コミュニケーション無しに生きていくことはできません。細胞の絶え間ない情報のやり取りがなければ、心臓は脈をうたず、眼球は見ることができず、花は咲かないでしょう・・ このような情報は外的環境(光、温度など)や内部環境(カルシウムやホルモン濃度や内圧など)からもたらされます。植物を例にとってみましょう。一枚の葉っぱは複数の上流からのメッセージが処理され、解釈され、実行されなければ、その形やサイズに育ちません。上流からの命令やメッセージがあるから、バラの花びら、サボテンのトゲ、円錐のもみの木が形作られるのです。「植物はどうやって葉っぱの成長をある所で止めるのでしょうか?」という疑問が湧いてきます。別の言い方をすれば、「どうやって植物は細胞に増殖と成長を止める命令をだすタイミングを知るのでしょう? さらに、ある時点での葉っぱが自分らしい特徴をもつ最終形であるわかるのでしょう?」プロテインキナーゼERECTAが答えを知っているようです。ERECTA(ER)は、植物の発生や構造形成において、複数のメッセージを複数の経路にリレーする中心的な役割を担っています。
インターネットやメールが現れるずっと前から、生物は情報交換をする方法に工夫を凝らしてきました。細胞は簡単に100万個をこえてしまうので、正しく決められた部分に組織され、決められた役割を果たすためには、情報のやり取りが必要なのです。肝臓、足、植物の茎、魚のひれ・・・情報のリレーが無ければ、ニューロンになって脳に移動するのか、それともつぼみとなって春に花をさかせるのかを細胞は知ることができません。細胞外へ、あるいは細胞内への何千ものメッセージは絶え間なく伝達され、特異的な生物学的なパスウェイの経路に沿って処理されていきます。
最初にこのメッセージを受け取るのはなんでしょうか? それは受容体(レセプター)です。細胞の細胞膜には、受容体が並んでいます。それぞれのレセプターは特異的に結合するリガンドを認識し、逆にまた認識されます。この結合によって、情報をリレーするシグナルの引き金をひき、生命の生物学的な経路を回したりて生命を維持しています。ERはこのような受容体の一つです。
ERは膜貫通タンパク質で、シグナル伝達を行っているようです。ERの細胞外の部分のリガンドに認識されるレセプターを形成するのは、代表的なものだとロイシンリッチ領域(LRR, Leucine rich region)でできており、現在この性質はよくわかっていません。細胞外の部分にリガンドが結合するとERが活性化され、細胞質でターゲット分子をリン酸化します。この性質もまだよく分かっていません。これらのターゲット分子は植物細胞の分裂、分化や配置に関わっているある遺伝子に作用しているのではないか、というのが現在の説です。その最終的な結果が、たとえば果物の大きさや形となって現れているのです。
ERのようなレセプター様のキナーゼは外部や内部のメッセージを常に受け取ったり送ったりして、つぼみの形を替えたり葉の輪郭を形作っています。植物のERは適切な発達の他に、光への反応、つまり光合成の活動や蒸散の効率を上げる役割も持っています。しかし、さらに驚くことには、ERはバクテリアや菌類に対して、病気への抵抗性の役割も持っている可能性があるということです。Talstonia solanacearumによって引き起こされる立枯病がひとつの例です。ERの存在は病気の進行をチェックしているようです。どうやって立枯病から身を守るのでしょうか? ERによってR.solanacearum, Athalianaが認識されると、発生・分化プログラムが変更されて、植物の構造を変えます。この変化によりバクテリアに感染しにくくなるということが示唆されています。非常に興味深いメカニズムです。
細胞分裂、成長、配置のレベルではERはたしかに植物の発生の心臓部分のようです。結果として多くの生物学的経路の上流で見つかっているのでしょう。一方で、下流に何があるか?ということもまた、科学者が知りたい部分です。LPRレセプター様キナーゼERを深く知ることはシグナル伝達がどう起こっているかを理解するのを助けるだけでなく、たとえば最もひろまった植物の病気である細菌による立枯病と戦うときにも多大な助けになるのです。若者がメールをやり取りするのと同じように、ERもたえまなくメッセージを受け取ったり送ったりします。メールなら送信者も受信者もわかりますが、ERなどのレセプターの場合は誰が送ったのか、そして誰宛に送ったのかということがまだまだ分からない、という違いがあります。細胞のコミュニケーションの問題はまだまだ簡単ではありませんね。
Cross-references to Swiss-Prot
LRR receptor-like protein kinase ERECTA, Arabisopsis thaliana (mouse-ear cress) : Q42371
References
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The Arabidopsis ERECTA gene encodes a putative receptor protein kinase with extracellular leucinerich repeats
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