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恍惚のタンパク質のはなし (Issue 118)

アルツハイマー病の原因の一つである、タウタンパク質の凝集。これを防ぐことができれば、認知症の治療や予防に利用出来るかも知れません。

a mind astray

Issue 118 June 2010 by Vivienne Baillie Gerritsen

彼はときおり電話番号を思い出せませんでした。しかし、家族には「電話が故障しているんだ」と言い続けました。電話の故障ではなく、記憶に問題があると彼の娘が気づくまで・・ これは多くのアルツハイマー病(AD)の始まりとなる兆候の中の一つです。この病気は世界で数百万人に影響を与え、患者の家族を猜疑、忍耐、苦痛、不信の渦に巻き込んでしまう病気です。アルツハイマー病は患者の脳をゆっくりと、しかし確実に侵し、神経にダメージを与えて認知機能を妨げます。やがて、患者は基本的な生命活動を失っていくだけでなく、どの人が家族なのかすら認識できなくなります。家族にとっては、まだ生きているその愛しい「誰か」を失ったことを受け止めなければなりません。100年ほどのADに関する研究で、科学者は比較的早くこの病気を診断できるようになってはいます。しかし、研究者たちが様々な可能性を試していますが、いまだにその治療方法は確立されていません。最近、その可能性の一つとして、アルツハイマーの進行を止める免疫抑制剤 FKBP52が見つかりました。

この2,30年、特に分子生物学の発展にともなって、ADに関してかなり詳細に分かってきました。この病気の発症にはいくつかのパターンがあるようです。①稀な遺伝性のもの。②神経の炎症によって起こるもの。そして、最近時々みられるものとして、③年齢とともに起こるもの、があります。③の例では、脳の中で老人斑や神経原線維変化がみられ、それぞれ、βアミロイドとタウタンパク質の異常な蓄積によるものです。結果として正常な神経の成長や機能が妨げられ、認知症の症状が現れます。

タウタンパク質は神経で多く発現され、微小管に結合し、微小管の伸長や安定化にとても重要な役割を果たしています。そして、もしタウタンパク質が微小管の成長に影響を与えるとしたら、このタンパク質は細胞骨格構造だけでなく、細胞内輸送にも影響をあたえることになります。微小管は細胞内の栄養やその他の分子を細胞内の別の場所へ運ぶ、道路のような機能を持っているからです。タウタンパク質がないと、神経は伸長したり、再生することができません。アルツハイマー病では、神経細胞の細胞質でこのタウタンパク質が過剰にリン酸化されてしまい、微小管を安定化するどころか、こんがらかった繊維の塊を作り出してしまうのです。

もし、なんとかしてその凝集を分解できたり、あるいは少なくとも凝集の成長を抑えられれば、微小管のためにタウタンパク質を遊離させたままにしておけるでしょう。その結果、微小管の伸長不良による認知症が修復あるいは予防できる可能性があります。今年の初めに報告された発見は、推測の域ではありますが、とてもわくわくするような報告でした。イムノフィリンFKBP52の登場です。

FKBP52は大きなタンパク質で、脳に多く(たとえば、ラットの免疫系の50倍も)含まれます。現在、FKBP52は少なくと別々の役割が3つあると思われています。一つは、このタンパク質はプロリンシストランス転移酵素(ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼあるいはロータマーゼ)活性を持っており、他のタンパク質のフォールディング/アンフォールディングに関わっている可能性があります。二つ目は、ステロイド受容体ヘテロ複合体と相互作用し、ステロイドレセプターシグナリングを制御することによって、熱ショックタンパク質Hsp90と結合できるということです。3つ目は、ここで紹介する新しい機能で、タウタンパク質と結合できるということです。

さらに、タウタンパク質の中でも、過剰にリン酸化されたタウタンパク質と特に結合します。このリン酸化されたタウタンパク質はADの特徴的な凝集塊を形成します。結果として、もしFKBP52がリン酸化タウと結合できれば、タウは凝集塊を形成できなくなるので、ADの進行を抑えることができる可能性があります。

これは期待できそうですね。しかし、科学者たちはすぐに指摘しています。「タウだけがADの原因ではない」と。βアミロイドもADの原因として存在します。さらに、研究はまだ実験室レベルの段階で、ADとの直接的な関連性まで掘り下げられていません。すべてはまだ仮説の段階なのです。また、タウタンパク質は他のタンパク質とも相互作用しているわけで、FKBP52だけがタウと優位に相互作用する理由も見当たりません。

研究は、暗闇で分からないものを手探りするようなものです。アルツハイマー病を理解することもま同じで、パーソナリティという漠然としたものや、それを司る微妙な化学物質バランスを測らなければならない難しいものなのです。ADやその他の認知症は、人やその周りの人たちにとって最悪な病気かもしれません。「私は誰なのか」というとても本質的な部分を侵すからです。この数年で、医療現場で大きなの進歩があったことは疑いありません。現在、ADかどうかの診断は早くなっています。ここ何年かで、認知症の進行を遅くする方法も見つかってきています。そして、やはり次のステップは「治療」の方法を見つけることとなるでしょう。

Cross-references to Swiss-Prot

  • Peptidyl-prolyl cis-trans isomeras FKBP4, Rattus norvegicus (Rat) : Q9QVC8
  • Peptidyl-prolyl cis-trans isomeras FKBP4, Homo sapiens (Human) : Q02790

References

  • A role for FKBP52 in Tau protein function.
    Chambraud B, Sardin E, Giustiniani J, Dounane O, Schumacher M, Goedert M, Baulieu EE
    Proc Natl Acad Sci U S A107p2658-63(2010 Feb 9)
  • FKBP52.
    Davies TH, Sánchez ER
    Int J Biochem Cell Biol37p42-7(2005 Jan)

補足

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FKBP52
FK506-binding protein群の一つ。