シグナル伝達の仲人 (Issue 121)
SHOC2タンパク質はRAFとRASの仲人のように働いています。しかし、このSHOC2タンパク質のたった一つの変異は、SHOC2の脂質修飾を誘導して間違った場所に局在化させてしまいます。その結果、MAPK経路が担う発生・分化のシグナル伝達に影響が出てヌーナン症候群に特有の症状が現れます。
the matchmaker
Issue 121 September 2010 by Vivienne Baillie Gerritsen
ちょっとしたことが大変な結果を引き起こすことがあります。軽はずみなそぶり。空気を読まない発言。一瞬の躊躇・・・ 「ささいなこと」で済まされないのは、体の中の分子構造も同じです。少しの化学構造の違いがガン、アルツハイマー病、鎌状赤血球症といった深刻な病気の原因となることがあります。ヌーナン症候群もそのような疾病の一つで、2000人に1人の割合で生まれています。ヌーナン症候群の子供は眼球間の距離が長く、首が幅広く(翼状頸)、身長が低い(小人症)のが特徴です。不幸なことに、この病気は先天性心疾患、学習の問題、血液凝固能の低下を併発し、その他の症状も患者によって範囲や重症度が大きく変わります。このような深刻なヌーナン症候群の原因の一つは、SHOC2として知られるタンパク質上に起こるほんの小さな変異であることが分かってきました。
ヌーナン症候群は小児循環器専門医であるジャクリーン・ヌーナンにちなんで名付けられました。ヌーナン症候群に関して最初に記したのは、コブリンスキー1)、子供の心臓欠損で稀に見られるあるタイプが小人症、翼状頸2)と密接に関連していることに最初に気づいたのはジャクリーン・ヌーナンです。この症状に関する彼女の最初の論文は1960年代前半に発行されました。そして、当時ヌーナンに指導を受けていた医学生、ヒト遺伝学者のジョン・マリウス・オーピッツが「ヌーナン症候群」という用語として提案しました。 こうして、この症状は1971年に公式に女性小児科医の名にちなんで付けられたのです。
もし、それほど多くの症状がたった一つのタンパク質によるものとすると、そのタンパク質は成長や分化に必須のシグナル経路の中心に違いありません。実際、SHOC2は細胞増殖、成長、分化、移動といった重要な役割を持つ、MAPK経路の一部です。MAPK経路は細胞表面からの核内のDNAへシグナルを伝え、その時その時に必要な遺伝子のON/OFFを切り替えています。この長い距離を通るシグナル経路には多くのタンパク質が関わっています。この経路に干渉することは、間違いなく混乱を引き起こします。多くタイプのガンはこのようなシグナル伝達システムが働かないことに起因しています。
SHOC2はタンパク質とタンパク質の間を取り持つ、中間のタンパク質です。細胞表面や核内ではなく、細胞質で働いており、MAPK経路のRASとRAFという二つのタンパク質の足場として働きます。SHOC2はタンパク質間相互作用を強めることが知られているロイシンリッチリピートを多く持っていることから、この機能を予測することはできます。SHOC2が強めるのはどのタンパク質間相互作用でしょうか? SHOC2の機能はGTPを持ったRASを捕まえて、その複合体をRAFに結合させてやることです。複合体がRAFに結合すると、リン酸基が脱離し、次にRASとRAFの乖離が起こります。この脱離したリン酸基が下流へシグナルを伝え、最終的に核内のDNAの遺伝子の転写をコントロールするのです。
RASとRAFはSHOC2がなくても結合することはできます。しかし、SHOC2は仲人のように働き、RASとRAFがずっと早く出会えるようにするのです。これによってシグナルが遅滞なく経路をたどっていけるようになっているのです。それでは、ヌーナン症候群ではSHOC2に何が起こっているのでしょうか? 実は、SHOC2の塩基配列のたった一つのミスセンス変異が、不可逆な脂質修飾(ミリストイル化)を誘導してしまいます。脂質修飾を受けたSHOC2タンパク質はすぐに細胞膜へと運ばれます。SHOC2が働くべき場所はRASとRAFを結合させる細胞質ですから、この変異によって間違った目的地に行ってしまうのです。結果として、MAPKシグナル経路はいつもの「結婚相談所」を失ってしまうのです。これによって胚分化が乱され、ヌーナン症候群に特有の身体上・生理学上の欠陥をもたらすことになります。
当然、SHOC2だけがヌーナン症候群に関係しているわけではありません。他のタンパク質も様々なやり方でMAPK経路を妨げて、類似の症状を引き起こします。SHOC2の特異な点は、実際に人間の症状として現れる病気が、一つのタンパク質の一つの化学修飾であるN-ミリストイル化が原因であるという最初の例であることでしょう。このことはこの症候群を患う子供を持つ両親にとっては何の慰めにもなりませんが、SHOC2の役割がより深く調べられることによって、多くのガンを引き起こすMAPK経路の入出力を評価する一助になります。これによって、間違ったシグナルの効果を逆転させる医薬のデザインに繋がり、この最も小さな犯人をやっつけることができるかも知れません。
Cross-references to Swiss-Prot
Leucine-rich repeat protein SHOC-2, Homo sapiens (Human) : Q9UQ13
References
- Mutation of SHOC2 promotes aberrant protein N-myristoylation and causes Noonan-like syndrome with loose anagen hair.
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